立法補佐機関の制度と機能―各国比較と日本の実証分析

3月 31st, 2013 | Posted by admin in 経営

畏友である著者蒔田純氏よりご献本いただきました。ありがとうございます。

この本、彼の博士論文をまとめたものを出版したそうです。自分を含めて毎年沢山の博士論文が量産されるけど、出版まで至る例はほとんどないと思う、彼の仕事に素直に敬意を表します。ちなみに、やや言い訳がましいですが、理系の博士論文が出版される例は、”この道の権威”が論文博士で博士論文を書かないかぎり少ないと思う、というのは、理系の場合、やっていることは比較的体系化されていない新しい分野なので、必然的に博士論文もそういうテイストになってしまう=本として出版されても読む人はあまりいない。

それはともかくとして、政治については、まったくの素人なのですが、この本を読んで、いろいろ学ぶところがありました。

立法補佐機関とは何か?

まず、このタイトルにもある”立法補佐機関”とは何か?自分が関わっている分野でたとえれば、会社の経営企画部門だと思う。内閣、議員が法律を制定するのと同じように、会社では基本的には社長が企業の意思決定をする。具体的な意思決定は、会社を買収する、人を採用する、業務提携をするなど。自分の知っている会社でも、何から何まですべてカリスマ社長が意思決定をして、あとは、平社員が実務にあたるという文鎮型組織(社長一人がトップで、あと平社員)もある。立法機関でいえば、スーパー議員が一人で法案を調査し、草案を作り、成立されるとも同義かもしれない。

とはいうものの、こんな沢山の業務を一人でできるわけではない。そこで生まれたのが、経営企画部。社長にかわって、中期経営計画策定の下準備、買収・業務定期先の候補先選定、開示業務、各子会社、部門の生産指標(KPI)の管理などを行い、それを社長に提示して、会社の意思決定をおこなう。自分の理解では、おそらく、立法補佐機関も、経営企画と同じで、社長(議員など)の補佐として法律作成を補助する衆議院調査局、参議院調査室、国立国会図書館、衆参法制局、政策担当秘書が立法補佐機関に相当する。

各国によって立法補佐機関はどう違うか?

こうした立法補佐機関たる議会の調査室、図書館、政策秘書は、国によってどう違うのか。それを解き明かすのが本書の最初の目的であり、それは議会内閣制と大統領制とで大きく異なると指摘する。米国のような大統領制は、行政府の長たる大統領は有権者から直接選ばれる一方で、立法府である議会から選任されるわけではない。したがって、大統領制では、行政と立法とが分離する。一方で、議会内閣制の場合、行政府の長たる首相は有権者ではなく議会の信任のもと選ばれるので、行政と立法とが融合しやすい。

とくに、米国ではこの立法と行政の分離が徹底しており、政府は法案を提出することすらできず、議員が法律を提出する仕組みになっている。したがって、議員の主な役割は法案の提出であり、それを補佐する立法補佐機関も日本・イギリス・ドイツなどに比べると質・量ともに圧倒的に充実している。

それで、議会内閣制も一括りにできるものでもなく、本書では議会の性格を”変換型議会”と“アリーナ型議会”の2つに分類する。前者の変換型議会は、社会の諸問題を法律に”変換”することを目的とした議会であり、立法に重きがおかれる。一方で、アリーナ型議会では、立法よりも与野党間の議論に重点におかれて、議論を通じて、論点を明確にする議会を指す。日本は、委員会を中心とする”変換型議会”の色合いが濃いため、立法に関わる補佐機関の役割が必要となり、アリーナ型議会の典型であるイギリスなどに比べると、制度として立法補佐機関が発達していると指摘する。

ただし、日本は立法補佐機関は制度としては発達しているものの、制度と現実運用とにかい離があると指摘する。

日本においては併用されている2つの制度(*1)のうち議員内閣制の影響が強く、結果として国会はアリーナ型に近い運営が為されている。原則公開の委員会、逐次審議ではなく質問形式の委員会審査、多くはない法案修正、政府提出法案と議員提出翻案の成立率の格差(*2)等はこのことを裏付ける運用面の特徴であり、政府提出法案の成立を前提として意思表明と議論を中核的機能とする英国型議会運営が為されていると言える。(p159)

長橋注
*1 委員会と議員内閣制
*2 政府55.9%,議員 23.8%

議会のガバナンスと企業のガバナンス

制度と現実運用にかい離があるというのは、往々にしてよくあること。たとえば、国会が唯一の立法機関であるように、会社において一番重要な意思決定会議は取締役会。とくに、アメリカでは株主から選ばれた取締役が、その会社の業務執行役を監督し、不正など株主の利益を毀損するようであれば、断固として”No”と突き付ける制度になっていて、日本もだいたい同じ仕組みだけど、その制度を完璧に運用している会社は比較的少ないと思う。きちんと運用するか、しないか、もちろん、株主の意向(とくにファンドが大株主の場合、このきちんと運用すべしという意向が強い)もあるけど、結局、マネジメントの意思なんだと思う。

この本、各国の実証分析以外にも、日本での立法補佐機関の動向、とくに、筆者が議員秘書という立場もあり、”現場”からのアプローチが随所に盛り込まれていて、博士論文以上の価値があると思いました。

目次

序章 立法補佐機関をめぐる研究の前提
第1章 立法補佐機関の定義・分類と各国の概要
第2章 立法補佐機関の比較と分析
第3章 立法過程における立法補佐期間の役割
第4章 時系列に見た日本の立法補佐機関の活用程度
第5章 衆議院調査局・参議院調査室・国会図書館調査及び立法考査局の活動実態
第6章 衆院法制局・参議院法制局の活動実態
第7章 政策担当秘書の活動実態
第8章 国会議員からみた日本の立法補佐機関
終章 立法補佐機関のあり方

立法補佐機関の制度と機能―各国比較と日本の実証分析
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