先日、新聞でナイキのブランド価値が下がっているという記事を読みました。ナイキといえば、自分がものごころをついたころはマイケル・ジョーダンやタイガー・ウッズの全盛期と被っており、スポーツ用品と言えばナイキというイメージがあっただけあって、はて?と思いました。
なぜ、ナイキのブランドの価値が下がっているのか?一言で言えば、D2C(Direct To Consumer)の躓きにありそうです。D2Cは、その昔、本を書きました、「D2Cの基本と仕組みがよ~くわかる本」(秀和システム、2021年3月)。で、その際は、製版一体のビジネスをヒントに、顧客がプロダクトを最初に認知する入口から実際にプロダクトを購入するところまで、ネット・スマホ活用によって、よりリッチな顧客体験ができるという話でした。
この話でいえば、ナイキが躓いた理由は、「入口を絞る」ところにありそうです。具体的には、ナイキの前CEOドナホー氏は、イーベイ出身もあり、ネットビジネスの知見を生かし、EC事業の強化と直営店販売の拡大に動いた、すなわち、「入口を絞る」戦略を策定しました。
こうした「入口を絞る」戦略は、2020年kらの新型コロナウィルスの拡大感染期には、EC用アプリの「ナイキアプリ」や限定モデルなどを扱うスニーカー販売アプリの「スニーカーズ(SNKRS)もヒットし、さらには、アマゾンや小売店フットロッカーなどの小売への販売も制限して、直営店への呼び込みをはかり、売上に占める直営店比率は4割まで拡大しました。
が、新型コロナウィルス感染が収束すると、「入口を絞る」戦略は裏目にでました。やはり、誰もが直営店に通う、ナイキの熱狂的なファンであるわけではなく、ショッピングモールにいったらナイキじゃなくて、HOKAのスニーカー、あるいは、日本だとアシックスも増えています。さらに、自分が毎年、楽しみにしている箱根駅伝でも、一時はナイキが独占していましたが、2025年では、ナイキのシェアは23.3%、2023年の61.9%からだいぶシェアを落としていて、アディダス、アシックスのシェアがナイキを上回っています。
こうした結果、ナイキが人々の目にとまらなくなり、売上も4四半期減収、世界ブランド力のランキングも2017年の26位から25年には66位まで大幅に下がったそうです。まあ、方丈記で言えば、「大家滅びて小家となる」といったところでしょうか。
このナイキのブランド低下力の話、いろいろな論点がありそうです。個人的には、「入口を絞る」戦略が問題と認識しました。たしかに、デジタルの場合、特定の顧客に向けてアプリなどで「入口を絞る」ことができます。が、誰もがナイキのアプリをインストールしているわけではなく、たまたま、ショッピングモールでクールなスニーカーを見つけたから買おう、いわゆる、偶然の出会い「セレンディピティ(serendipity)」もあり、「入口を絞る」とは正反対のアプローチでもあります。むしろ、直営店だけではなく、量販店、ECといった面を増やす、いわば、「入口を広げる」ところに、ナイキの教訓、さらには、D2Cの可能性とも思いました。
「入口を広げる」、たとえば、モールにショップを増やすだけではなく、いろいろやり方がありそうです。箱根駅伝もアピールの手段ですよね。箱根駅伝は、日本の駅伝の頂上です、そこで圧倒的なシェアをとれば、「これはすごい、ナイキのシューズを買ってみよう」と「入口が広げる」ことになりそうです。それは、「入口を絞る」とは逆のアプローチではありますよね。というわけで、「大家滅びて小家となる」、これは栄枯盛衰の必然かもしれないですが、とはいえ、「入口を絞る」のではなく「入口を広げる」ことが大事なのではないでしょうか。