たった一人の狂気 - 「イーロン・マスク自伝」

11月 15th, 2023 | Posted by admin in 長橋のつぶやき

 ウォルター・アイザックソン「イーロン・マスク」を読みました。上下あわせて900ページ以上あり、イーロン・マスクの生い立ちから、X(旧Twitter)の買収、内部告発文書であるツイッターファイルあたりまでカバーされています。アイザックソンの「スティーブ・ジョブズ」も読みましたが、いずれも、第3人称の目線ではなく、ほぼ第1人称の目線なので、彼が何を考えたか、どう行動したか、つぶさにわかるとともに、イーロン・マスクはビジネス、私生活含めて、とことん「クレージー」と思いました笑

 で、いろいろな論点がありますが、そのなかで、彼の原動力となっていると思われるのが、「アルゴリズム」です。ビジネスあるいはものづくり生産を始めるにあたって、彼は、5つの「アルゴリズム」を持ち出します、これは、1.要件はすべて疑え、2.部品や工程はできるだけ減らせ、3.シンプルに、最適にしろ、4.サイクルタイムを短くしろ、5.自動化しろ、です。

 このアルゴリズムがいかん発揮されたのが、宇宙ロケットスペースXで、アマチュアでロケットエンジンを作っているトム・ミューラーのアマチュアエンジンを改良からスタートします。そして、宇宙ロケットを製造するにあたって、軍やNASAが決めた仕様や要件を疑い(アルゴリズム1)、エンジン1基の製作費を部品・工程を減らして、コストを10分の1の20万ドルにし(アルゴリズム2)、2010年無人宇宙船を打ち上げる際、最終検査で2段目エンジンのスカート部に亀裂が入っていた際、数週間かけて修理・延期するのではなく、シンプルにスカートを切断して無事成功とシンプルに最適にする(アルゴリズム3)、そして、それが結果的にサイクルタイムも短くなると(アルゴリズム4)。最後は自動化(アルゴリズム5)であるものの、たとえば、テスラでは自動化ありきで進めましたが、結局上手くいかず、要件をすべて洗い直し、部品や工程を減らせるだけ減らし、バグを潰しきることではじめて自動化にたどり着いたといます。

 とはいえ、こうしたアルゴリズムが万能ではなく、2001年に創業したスペースXも発射試験を繰り返し、繰り返し、失敗し、2008年4回目の打ち上げでやっと打ち上げに成功します。というわけで、アルゴリズムを愚直に追及すること、そして、周りから何を言われようが、ギブアップせず、やり続けること、この「クレージー」さが、彼の持ち味だと思いました。で、これまでボーイングのような大手は、宇宙ロケットを製造するために、軍・NASAの仕様・要件に従い、そのコストを請求する実費精算式により膨大なコストがかかっていましたが、スペースXはこの「アルゴリズム」により大手と比較にならない低コストで宇宙ロケット打ち上げを成功させました。という点で、このスペースXの宇宙ロケットはイノベーション(革新)でしょうが、イノベーションを起こしたくて起こすのではなくて、アルゴリズムを追求した結果としてイノベーションにつながったとも言えそうです。

 ただ、こうした「アルゴリズム」は生産には有効ですが、万能のツールではなく、とくに後半ではツイッターの買収での苦悩が描かれます。買収する、しないのすったもんだの騒動で買収したツイッターですが、ツイッターはテクノロジー企業ではなく、人間の感情や関係に基づく広告メディアであり、とくに、政治的なバイアスがかかります。たとえば、ツイッターの内部告発文書であるツイッター文書では、ツイッターの社員の大半が民主党支持であり、大統領選挙の際、民主党候補バイデン大統領の息子のスキャンダルについて、民主党バイアスもあり、わざと拡散しなかった経緯が触れられています。で、この手の話は正解がないので、「アルゴリズム」で何とかなる話でもない気もします。そういう点で、X(旧ツイッター)の企業価値が半減しているのも、やはり、従来のイーロン・マスクの手法が通用しなかったということかもしれないですね。

 ただ、X(旧ツイッター)は置いておいて、ものづくりという点では、この「アルゴリズム」がスペースXの宇宙ロケット、テスラのEVなど、米国、そして、世界を大きく変えました。そして、それはたった一人の狂気クレージーによるもの、といってもいいかもしれません。自分はこうしたクレージーな性格ではないですが汗、まわりにイーロン・マスクのようなクレージーを持ち合わせている人がいたら、起業を進めましょう。で、もしかしたら、それによって世界を変えるイノベーションを生み出すことができるかもしれません笑

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